だから好きだってイったじゃない!

ラブドリームハピネスッ

オンラインライブは現場を失ったオタクを救うのか?

こんな世の中になってしまいましたが、何かを推し、何かを愛するオタクのみなさまはいかがお過ごしでしょうか?

キャパが大きければ大きいほど再開に時間がかかってしまう現状。ドームクラスの動員を持つグループを追う身として、辛く悲しい1年となった。HIGH&LOWに出会いブラック企業はやめたし、新しい仕事も順調、何より今の推しであるEXILE TAKAHIROが常に楽しませてくれるので、人生は最高だったのだ。毎日楽しかった。あの日まで。

公演中止、その四文字を見て、冗談じゃなく失神しかけたのはイオンモールのマックでビッグマックを口に押し込んでいた時だった。場所は京セラドームの横、この日、私はEXILEのライブのために東京から夜行バスに揺られて大阪に来ていた。

2年前まで遠征なんてしたことのなかった、二次元のオタクだったが、LDHのオタクになってから気づけば毎月のように大阪や名古屋に足を運ぶ生活を送っていた。

2月26日は、1月から始まったEXILEのドームツアーの最終日。平日であったが、私と友人はそれぞれ休みを取って、ツアーのオーラスを迎えるべく大阪の地にいた。

EXILEのメンバーは公演前にもよくインスタなどのSNSを更新してくれるので、それをチェックしながらの昼食。グッズに並んだり、会場周辺のゲームコーナーなどで遊んでいれば、開演までの5時間なんてあっという間で、すぐにライブが始まる、それを疑っていなかった。

ところがその瞬間はきて、公式からライブの中止が発表された。「大阪には夜行バスに乗りに来た、夜行バス大好き―!!!」と言いながら、時間を潰した後にまた夜行バスで東京に帰った。

RISINGS SUNなカラーにしよー!と前日に塗った、浮かれたオレンジのネイルを車内でぼんやり見ながら、ただ悲しいな、と思った。

大して波のある人生を送っていないこともあり、私の人生でもかなり“かわいそうレベル”の高い1日となってしまったこの日、おそらくこれから先も忘れることはないだろう。

エンタメを啜って生きるオタクとして、あの日から考えたことがたくさんあって、ずっと何かしら文章にしたいと思っていたんだけれど、決着がつかないまま年末を迎えてしまった。

ただ、年も間もなく明ける12月29日に私の中で一区切りついた出来事があった。それは推しのオンラインライブだ。私の推しグループEXILE、彼らは12月29日に新生EXILEという形で初ライブを行った。

新しい体制で、とはいってもそもそもEXILE名義でのオンラインライブは初である。今年、ライブという現場を失ったLDHは、割と早い段階の7月からLIVE ONLINEといった名前でオンラインライブに取り組んでいて、7月、9月、10月-11月、12月、と殆ど毎月コンスタントにライブを行っていた。

グループ混合のライブなども存在しつつも、単独参加だと、多いグループでは4回。それもすべて新しいライブを披露しているのだ。

LDHのオンラインライブは全て生配信となっており、バラエティコーナーを含んだ形式や、過去曲を中心にパフォーマンスするものなど、バリエーションが多岐に渡っているのも特徴で、三代目とGENERATIONSについては私もどちらも4度のライブをすべて見ており、毎回異なる色を見せてくれて、どれも満足度が高かった。

そして、そんなオンラインライブにEXILEは12月が初参加となった。これに関しては、メンバーのほとんどがグループ兼任など、様々な事情があったのだろうと予想できるが、正直なところ、2回目のオンラインライブが発表された際にEXILEの名前がなかったのは本当に辛かった。なんで私は推しがライブで観られないんだろう、と、とにかく悲しかったのは覚えている。 

振り返れば限界オタクの笑い話だけれど、あの頃本当に精神的に厳しかった。ライブに行きたい。行きた過ぎて推しの歌詞を写経のように紙に書いてた、ちょっとやばいな、と思った。『君の夢を輝かせたくて』という歌詞を書いて、「推しの夢、輝かせたい」と泣いた。結構やばいな、と思った。自粛期間中にLDHが無料公開してくれたライブ映像を観ながら吐くほど泣いて、これはマジでやばいと思ったけれど、まだ底があった。

「ライブ(観られなかったけど)でできた傷は、ライブで癒すしかない。現場しか癒せない」と、2月26日にも一緒に行動していた友人と通話で話したことを覚えている。でもその現場がない上に推しのんオンラインライブもないので、傷は化膿して、ぐちゃぐちゃになってしまいそうだった。

時間はあるのになんだか毎日パッとしなかった。それは現場がないからだし、自分がどれだけエンタメに依存していたのかわかった。

そして12月29日、待ちに待ったEXILEのオンラインライブが生配信で行われた。

ここではあえて彼らを新生EXILEと呼ぼうと思う。彼らは間違いなく、新しいEXILEを構築したのだ。

ここを読む人がEXILEに明るいかどうかはともかく、とりあえずEXILEは11月に人数が減った。ボーカルが1人卒業したのだ。よく「EXILEって何人?」と聞かれるが、現在は14人だ。そして、その卒業発表から2か月もしないうちに、彼らは自分たちの新しい姿でのライブを私たちに見せてくれた。このスピード感も、もしかしたらオンラインならではなのかもしれない。

ライブの前にメンバーから「後先考えないセットリスト」「リハの後に関節がイカれた」「足がつった」などの言葉で語られていたが、誇張ではなく、パフォーマーはほとんど2時間弱踊りっぱなしだった。

EXILEは年齢幅が広く、20代と40代が同じグループに存在している。今20代の自分だって「24歳過ぎてからメッチャ身体重くない?」とナメた言葉が出るくらい体力の衰えを感じることがあるのに、40代が20代と同じ運動量で踊るのは、一体どれだけ努力しているのだろう。若い世代だって、ダンス歴もステージの経験数もまったく違う先輩メンバーの隣で踊るためにどれだけの努力が必要なのだろう。

兼任のメンバーは厳しいスケジュールをこなして、このステージを作った。そしてセンターでメインボーカルを背負うことになったTAKAHIRO、ボーカル&パフォーマーとしてこれまで以上の活躍を見せるSHOKICHIとNESMITH、全員の熱量が画面の向こうから伝わってくるようだった。

常々思っているのだけど、ファンにとって何よりも大事なのは安心、なのだと思う。熱狂や興奮は後からいくらでも火を点けられるが、安心という地盤がなければ、応援し続ける上で負担がかかりすぎるのだ。新生EXILEはすべての不安をパフォーマンスで掻き消してくれたように思う。

そして彼らが大きく変化することを選んだことにも私は驚いた。19年の歴史と財産のあるグループだ、変化をするには何らかの痛みを伴うだろう。

それでも彼らは、初ライブをやるにあたって、セットリストを定番のヒットチャートを詰めていた過去のものから大幅に変え、パフォーマーのフォーメーションを変え、ボーカルのパート魅せ方にも大きな変化を加えた。

オンラインライブを終え、一番最初の感想は「これが見たかったEXILEだ」だった。EXILEを好きになる前にイメージしていたEXILEに近かった、というのも変な表現だけれど、昔からのファンならば、もしかしたら“戻った”と感じるのかもしれない。

EXILEのファンでない人にとっては意外かもしれないが、近年のEXILEはよく平和を祈る歌や、子供たちの未来を願う歌などを歌っていて、世間のイメージ的なオラオラな要素は薄くなっていたように思う。

それでも、私がEXILEを好きになったきっかけは、2018年から行われていたドームツアーだし、過去のどのEXILEも時代に合っていて最高だ。壮大なバラードで平和を祈るEXILEは健康にいいし、『浪漫の地球』も『愛のために ~for love, for a child~』も名曲なのだ。

それはそれ、これはこれで、今回のオンラインライブで、私はとにかく彼らの強そうな姿が好きだ、と再確認した。強い、と断言してもいいのだけれど、平和を祈ってるEXILEも世界平均で言えばかなり絵面が強い部類なので「強そう」とあえて表現したい。

新生EXILE、とにかく生命力に溢れている。映像を観ていると、メンバー全員が目に入るのだ。カメラワークだけの話ではなく、全員が「ここにいるぞ!!」と画面の向こうにいる私に主張してくるような気さえした。

一方で、フォーメーションの中にボーカルを含めた、14人全員で群である瞬間もある。そういう姿を見た瞬間に「優勝」という言葉が頭に浮かぶ。何に勝ったのかは分からないが、この一体感を浴びた時、私はドームのアリーナにいた。オンラインライブだというのに、Bブロックのセンター2列目でEXILEを見た時と同じ感動があったのだ。

彼らは揃って既存のものをぶっ壊して、新しいEXILEを構築した。まだ作っている途中といってもいいかもしれない。彼らがそれぞれ別のグループで得た経験や、技術が新しいEXILEの幅を広げていく。

大きなグループや名前の売れたものを応援していると、ファンでない人のノイズが聞こえてきたりするのは、今まで他のジャンルでも散々体験してきたことだ。でももう、彼らが最高なことは私が一番わかっていると思うと心もストロングになる。彼らの見せてくれたステージが、この時代にエンターテインメントを愛することへの安心と自信をくれたと思った。

ただ、ここまで「オンラインライブは最高!!」という話をしたけれど、今年あらゆるアーティストが行ったオンラインライブは、現場を失ったオタクたちの救いになったのだろうか?

余談だけれど、私はライブが中止になったショックで500円大のハゲができた。Twitterに書いたらバズって勝手にまとめ記事にされて、知らない誰かにコメントで「嘘乙」と書かれたのも記憶に新しい。ハゲに塩を塗らないで欲しい。

だけれど悪いことばかりではない。「ストレスの原因がなくなれば一気に生えるよ」と医者が言った通り、LDHのオンラインライブの初回以降、稲が伸びるようにグンッと髪は生えてきて、一か月程度で目立たなくなった。生えかけの髪の毛をショリショリ触りながら、「マジでライブが原因だったんだな」としみじみしてしまった。

髪は生えたし、初めてのオンラインライブは刺激があって大変楽しかった。だけれど、この時に私は失ったものをすべて取り戻せたのか?というと、取り戻せてはいないのだろう。

例えば仕事終わりに夜行バスに飛び乗って次の日のライブがある地方に向かうとか、チケットの当落だとか、座席の良し悪しだとか、会場での交流だとか、そういった刺激を含めて現場が好きだったのだ。

もちろん、そういう体験を失った代わりに、何のお酒を飲みながら観ようかな、とか、後で友人と通話しながらみようかな、とか、そいう別の楽しみ方はオンラインライブにはあった。これらももちろん楽しかったが、現場での熱狂や興奮にはまだ足りない。

それでも今、1年を振り返ってオンラインライブという形式でも、エンタメを体感できてよかったな、と私は振り返る。

この一年、LDH以外にも友人の誘われたり、自主的にもいくつかバンドやアイドルのオンラインライブや配信の舞台を見てきた。ライブの映像そのままの臨場感あふれるものや、ARを使用したオンラインならでは演出、ファン参加企画が凝ったものなど、どれも趣向を凝らして自分たちのエンターテインメントを画面の向こうから見せてくれる。

中には、配信環境なども含めてオンラインには向いてない、と感じるものも存在したが、時代が少し違えば失われていたかもしれない音楽が、どんな形であってもネットを通して応援しているファンの元に届く。そういう意味では、今が2020年でよかったな、という気持ちにもなった。

もちろん、観る側でもオンラインでのライブを苦手とする人もいるだろう。私はオンラインライブについては集中できるタイプだったけれど、実はライブ円盤を観るのがあまり得意ではないので、少し気持ちもわかる。

前の方にも書いたけれど、現場と比べたら100%ではないのだ。比べるものではないんだな、というのは当然だけれど、現場を失ったことへの100%の補填にはならない。

それでも今年、アーティストたちが音楽を届けようと配信をし続けたことで、今年1年、エンターテインメントの火が消えなかったんだと感じる。

大型のアーティストがオンラインライブを行えば、翌日のニュースでその話題が出る。例えばそんな些細なことでも、日本のエンターテインメントは少し存在感を取り戻す。

大小関係なく、好きなアーティストのオンラインライブのチケットを買えば、その事務所やアーティストにお金が入る。そこからスタッフへの給料が支払われ、そのお金の動きが、エンタメを延命させる。

どうしても、今は私たちが好きなものは蔑ろにされてしまう時代だ。秋ごろから少しずつキャパの小さいものは再開しているし、LDHも来年からドーム規模のライブを再開させる予定だけれど、それでも一年前と同じ状態を取り戻すのは、きっとエンターテインメントが一番最後になるだろう。

そんな中で、オンラインで開催、という選択肢と、オンラインで観る、という選択肢は、またみんなで集まってライブやイベントができるための、そこにたどり着くまでの道しるべになるのではないかと思った。

エンタメがなくても、それが直接の原因で人は死なないが、私はハゲたし、悲しい気持ちにもなった。自分の生き方にどれだけエンタメが必要で、救われてるのか気づくことができた気がする。

そして間もなく2021年、新しい年を迎える前に「ぜってぇ負けねえ」という言葉が浮かぶ。何と戦っているわけではないけれど、ままならない状況の中で、エンタメを愛する人たちが、負けない世界であって欲しいと思う。そして何かを好きな気持ちを、直接会えなくても大事に守っていきたいなと改めて感じた。